2015年01月30日

投稿原稿-4 ・・・ 男性の人権を守るために 【2】

4回目の投稿原稿を掲載する。
今回は「男性の自殺」を取り上げた。
例によって、
このブログの幾つかの記事をまとめたものであるから、
内容の重複があるが、
ご容赦いただければ幸いと思う。

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 男性の人権を守るために【2】

2.男性の自殺

(1) はじめに

 「いのちの重さは、男性より女性の方が重い」と主張する人は、とりあえずいないもの
と仮定するが、現実的には、後述する自殺デ−タに見られる明白な性差から、男性の場合、
恐らくは既存の性別観や、男性であるために背負う性別役割等の影響のもとで、解決不能
の危機や孤独に直面し、自ら死を選ぶことが、女性にくらべ、有意の差を持って多いもの
と推察される。自殺デ−タに見られる性差から、男性のいのちは、社会によって軽んじら
れていると表現することが可能である。勿論、女性に危機や孤独がないなどと言うつもり
は全くなく、要するに、可能性や頻度の問題である。                

 時代の変化を見ると、今の日本には、「男のくせに」とか「女のくせに」とか、そうい
う表現をタブ−とする価値観が広がりつつあるようで、男らしくない私は大変喜んでいる。
しかしこの変化は、まだ、はなはだ表面的なのであって、現実的には、男性は、従来から
の男らしさの規範、男性であるが故の呪縛を、陰に陽に押しつけられるし、自分自身でも
背負うことが多いと思う。                            

 たとえば、私の知人に、ある相談活動に従事する男性がいるが、彼はあるときこう言っ
た。「私は、女性から相談を受けると、相手の気持ちに寄り添い、親切に対応しようとす
るが、男性から相談を受けると、『男なんだから一人でやってみろ』と言いたくなってし
まう」と・・・。彼は、根はいい男性であるから、今はもう姿勢を変えたと思いたいが、相
談活動はいずれにしても、彼と話しをしていると、同様の性別観、性別役割の押しつけ
が随所に現れる。要するに、何事につけても初めに結論ありきで、彼は男性に対して、
困難や孤独や我慢や被差別の受容を要求する。そして彼は、その要求が男性に与えるス
トレスを理解しようとしない。

 また、私が時折会話をする20代の女性であるが、彼女の第一子は男の子で、ある日彼
女は彼の未来について、「男の子だから強く・・・」と言った。それは、とりもなおさず彼女
の愛の一つの形であろうし、社会通念的にも受け入れられやすく、強くなるのは、本人
の人格に愛の欠落がなければ大変結構なことだと、私は性別と無関係に思っているが、
私の中の、この投稿に至る内発性の故に、表面的には頷きながらも心中穏やかではなか
った。男性であることを背負い、孤独と危機の中で疲弊してゆく男性、その背後で煩悶
を余儀なくされる母親。そういう現実は確かにあるだろう。            

 ところで先日、私のブログにきてくださったある男性が、ワレン・ファレルの「男性
権力の神話」(久米泰介訳.作品社)を紹介してくださった。その冒頭の山田昌弘さん
(中央大学教授)の推薦文に、次のような一節があり、私の問題意識を的確に代弁して
くださっているように思われた。                          

    なぜ女性のつらさは問題にされるのに、
    男性の生きづさは問題にされないのだろう。

 山田さんのこの一節と共通の思いを、私は、「男性の自殺」を取り上げた自分のブログ
で、次のように表現してきた。

   しかし自殺者に男性が多いことは、厳然たる事実であって、
   ・・・・・・・・・(中略)・・・・・・・・
   自殺者の男女比が、もしも逆であったら、
   日本中が大騒ぎになっているような気もする。
   女性団体はたぶん、その現実を放置しないだろう。
   保護を求める女性たち、保護を受け入れられる女性たち、
   しかし保護を求めることができずに、
   「男性」であることを背負いながら、
   孤独のうちに死んでいく男たちがいる。

(2)自殺の状況

 自殺に関するデ−タは、厚生労働省と警察庁が集計しているが、厚生労働省は、家庭
からの死亡届をもとにしているとのことであるから、より自殺の実態に近いのは、警察
庁のデータであろうと推察される。ちなみに、「年間自殺者数が14年間3万人を越えた」
という報道は、警察庁のデ−タに基づいている。                 
 警察庁のデ−タは、内閣府自殺対策推進室が整理し、ホ−ムペ−ジに掲載している。
それをもとに、主に性比に着目して整理し直したデータを、4種類の表として文末に掲
載した。(注1)                                

 その【表1】に示されているように、1978年から2013年までの36年間、毎年例外
なく、男性の自殺が女性を上回っている。それ以前も恐らくは同様であろうと推測する。
警察庁は、自殺の原因・動機を大きく7項目(表2)に分類し、更にそれを51の小項目
(表3)に分類しているが、大分類では、【表2】の通り7項目全てで男性の自殺が女性
を上回っている。特に「経済・生活問題」と「勤務問題」では差が著しく、前者では、
男性の自殺が女性の8〜10倍、後者では7〜9倍に達している。小分類では、【表3】
のように、51項目中48項目で男性の自殺が女性を上回り、女性が男性を上回るのは 2
項目。残りの1項目は同数であった。                      

 また、一昨年の春、就職活動失敗による若者の自殺の増加が報道されたが、その状況
を、この6年間について性別と共に示せば、【表4】のように、自殺者の8割から9割を
男性が占めている。                              

(2)自殺対策

 国の自殺対策としては、年間自殺者数が3万人を越えて9年目(2006年)の、自殺
対策基本法の制定であるとか、翌年の、内閣府への自殺対策担当の設置、或いは自殺総
合対策大綱の策定などが聞こえてくる。全国の取組みは自治体により差があると聞いた
が、●●県ならば●●市の自殺予防フォ−ラムに「結実した」と表現したくなるような
取組みがあったし、県としては、自殺対策アクションプランの策定があった。そういう、
温度差をかかえながらも全国に広がっていった自殺対策の成果であるのか、或いは、若
干の好転とも言われる経済状況の変化の帰結であるのか等、主因は関係者に聞いても定
かにならないが、2012年から、全国の年間自殺者数は3万人を割った。しかしこの変
化の中にあっても、変わらない事実がある。それは、自殺が男性に多いという明白な
「性差」なのである。                               

 先日私は、ある自殺対策を担当する男性に、彼の、男性に対する性別観について尋ね
た。結果は私の予想通りであった。彼は、私がこの投稿原稿の冒頭で紹介した男性相談
員のような性別観が、自分の中にあると答えたのである。そしてそれは、恐らくは決し
て珍しいことではなく、むしろ平凡で一般的な価値基準として、多くの男性の中に存在
する。男性の、男性に対する支援は弱く、その関係性は、社会の中に根を下ろしてしま
っているのである。そしてそれは、自殺対策に限らず、次回再び取り上げる「災害対応」
についても、その施策決定の過程で強い影響を与えてきたし、これからも与え続けると
推察する。男性に対して「困難や孤独や我慢や被差別の受容を要求する」性別観が、女
性の自己本位性を是認し、膨張させ、男性差別の施策が出現する。      

【インタ−ネット検索項目】                          
(注1)平成20・21・22年度における自殺の概要資料(警察庁生活安全局生活安全企
画課)、及び、平成23・24・25年度における自殺の状況 (内閣府自殺対策推進室・警
察庁生活安全局生活安全企画課)を用いて算出。
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【表1】年間自殺者数の変化と男女比(1978〜2013年:36年間)        
   ・年間自殺者数が3万人以上であるか否かによって、36年間を三つの時期に区分し、
   各時期の年間自殺者数の幅を示した。                     
   ・男女比は、各年度の女性の自殺者数を1として、男性の自殺者数の割合を数値で 
   示した。表中の(自殺率)は、人口10万人あたりの自殺者数を示す。       

     (年次)    (年間自殺者数)    (男女比)【男/女】     
                         自殺者数  (自殺率)   
   1978年〜1997年  20,434 〜 25,524   1.6 〜 2.1 (1.7 〜 2.2)  
   1998年〜2011年  30,651 〜 34,427   2.2 〜 2.6 (2.3 〜 2.7)  
   2012年〜2013年  27,283 〜 27,858     2.2   (2.3 〜 2.4)  

【表2】原因・動機(大分類:7項目)別自殺者数と男女比(2008〜2013年:6年間)
    ・6年間の年間自殺者数の幅を、原因・動機別にした。            
    ・表の数値には、「原因・動機不特定者数」は含まれていない。         

   (原因・動機)     (年間自殺者数)    (男女比)【男/女】     

    健康問題      13,629 〜15,867     1.3 〜 1.5       
    経済・生活問題    4,636 〜 8,377     8.3 〜 10.3        
    家庭問題       3,912 〜 4,547     1.7 〜 1.9        
    勤務問題       2,323 〜 2,689     6.9 〜 8.8        
    男女問題        912 〜 1,138     1.4 〜 1.8        
    学校問題        364 〜  429      2.6 〜 3.8       
    その他        1,462 〜 1,621     2.1 〜 2.7        

【表3】原因・動機(小分類:51小項目)別自殺者数と男女比(2013年)     
    ・男女比は、自殺者数の少ない方を1として、性差の大きい順に配列した。 
    ・51の各小項目が属する大項目は、小項目名の末尾に、次の略記号で示した。
       健康問題:A  経済生活問題:B  家庭問題:C  勤務問題:D
       男女問題:E  学校問題:F  その他:G            

(順位)(原因・動機)         (男 女 比)         (人数)         
                   【 男性 : 女性 】  (男性) (女性) (計)    

1 倒産:B             【 45.0 : 1 】   45    1    46     
2 負債(連帯保証債務):B     【 20.0 : − 】   20    0    20     
3 負債(多重債務):B       【 15.8 : 1 】   647   41    688     
4 事業不振:B           【 15.8 : 1 】   568   27    438     
5 失業:B             【 14.7 : 1 】   411   28    439     
6 職場環境の変化:D        【 12.2 : 1 】   280   23    303     
7 就職失敗:B           【 10.9 : 1 】   251   23    247     
8 犯罪発覚:G           【 9.9 : 1 】   158   16    174     
9 仕事疲れ:D           【 9.5 : 1 】   587   62    649     
10 その他:D            【 8.9 : 1 】   354   40    394     
11 負債(その他):B        【 8.5 : 1 】   773   91    864     
12 借金の取り立て苦:B       【 7.8 : 1 】   47    6    53     
13 自殺による保険金支給:B     【 6.7 : 1 】   60    9    69     
14 生活苦:B            【 5.5 : 1 】  1,081   196   1,277     
15 子育ての悩み:C         【 1: 4.6 】   24   111    135     
16 職場の人間関係:D        【 4.3 : 1 】   437   102    539     
17 その他:B            【 4.2 : 1 】   244   58    302     
18 教師との人間関係:F       【 4.0 : − 】    4    0     4     
19 その他:G            【 3.6 : 1 】   462   130    592     
20 そのほかの進路に関する悩み:F  【 3.5 : 1 】   92   26    118     
21 病気の悩み・影響(アルコ-ル依存症):A【 3.5 : 1 】   163   47    210     
22 入試に関する悩み:F       【 3.3 : 1 】   23    7    30     
23 学業不振:F           【 3.1 : 1 】   102   33    135     
24 夫婦関係の不和:C        【 2.7 : 1 】   729   273   1,002     
25 身体障害の悩み:A        【 2.6 : 1 】   198   77    275     
26 家族からのしつけ・叱責:C    【 2.5 : 1 】   108   43    151     
27 失恋:E             【 2.4 : 1 】   207   86    293     
28 その他:F            【 2.3 : 1 】   25   11    36     
29 病気の悩み(身体の病気):A   【 2.0 : 1 】  2,993  1,470   4,463     
30 その他:E            【 2.0 : 1 】   36   18    54     
31 家族の将来悲観:C        【 1.9 : 1 】   384   203    587     
32 その他:A            【 1.9 : 1 】   166   88    254     
33 その他:C            【 1.8 : 1 】   217   119    336     
34 孤独感:G            【 1.8 : 1 】   339   193    532     
35 近隣関係:G           【 1.7 : 1 】   36   21    57     
36 そのほかの家族関係の不和:C   【 1.6 : 1 】   277   171    448     
37 介護・看病疲れ:C        【 1.6 : 1 】   164   104    268     
38 結婚をめぐる悩み:E       【 1.4 : 1 】   53   37    90      
39 病気の悩み・影響(薬物乱用):A  【 1.4 : 1 】   35   25    60     
40 家族の死亡:C          【 1.4 : 1 】   313   229    542     
41 いじめ:F            【 1.3 : 1 】    4    3     7     
42 親子関係の不和:C        【 1.3 : 1 】   259   198    457     
43 犯罪被害:G           【 1.3 : 1 】    5    4     9     
44 不倫の悩み:E          【 1.2 : 1 】   91   74    165     
45 病気の悩み・影響(統合失調症):A 【 1.2 : 1 】   694   571   1,265     
46 病気の悩み・影響(他の精神疾患):A【 1.2 : 1 】   721   600   1,321     
47 そのほかの学友との不和:F    【 1: 1.1 】   21   24    45     
48 そのほかの交際をめぐる悩み:E  【 1.1 : 1 】   165   145    310     
49 後追い:G            【 1.1 : 1 】   52   42    98     
50 病気の悩み・影響(うつ病):A   【 1.0 : 1 】  2,939  2,893   5,832     
51 被虐待:C            【 1 : 1 】    2    2     4     

【表4】就職失敗による若者(20代)の自殺と男性の割合(2008〜2013年:6年間)

      (年次)   (総数) (男性) (女性)   (男性の割合)   

    2008年(H 20)   86    69    17     80.2 %       
    2009年(H 21)  122    98    24     80.3 %       
    2010年(H 22)  153   138    15     90.1 %       
    2011年(H 23)  141   119    22     84.3 %       
    2012年(H 24)  149   130    19     87.2 %       
    2013年(H 25)  104    95     9     91.3 %       
posted by 翠流 at 16:04| Comment(0) | 投稿原稿 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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